日本言語技術教育学会blog

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日本言語技術教育学会第33回研究大会群馬大会 募集開始

 日本言語技術教育学会第33回研究大会群馬大会を令和6(2024)年6月29日に育英短期大学で開催する。

 大会研究論文集である『言語技術教育33』を刊行した。

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 序文を公開する。研究者と実践者が平等に議論し合う稀有な研究会である。是非,多くの方と学び合いたい。申込みはこくちーずである。参加をお待ちしている。

 

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 『言語技術教育33』序文

 

 日本言語技術教育学会第三三回研究大会・群馬大会の成果と課題の想定 会長 柳谷直明

 日本言語技術教育学会第三三回研究大会・群馬大会の成果と課題を想定する。

 『言語技術教育33』は大会での研究論文、模擬授業指導案を収載し、加えて、『宇佐美寬氏追悼の辞』も収載した。宇佐美寬(論文での敬称は省略)は本学会の発起人の一人であり、功績が大きいと会長が判断したからである。過去、市毛勝雄の追悼を大内善一が収載した。会員の追悼を収載するならば、会員が逝去する度に収載しないと不公平であると宇佐美は述べるだろう。今回は会長判断で『宇佐美寬氏追悼の辞』執筆希望者を募りその結果、会長と前会長と常任理事三名が執筆した。今後、追悼収載は理事会で決めればよい。追悼収載の判断基準はない。このような経緯で『言語技術教育33』は『宇佐美寬氏追悼の辞』を収載した。『宇佐美寬氏追悼の辞』は宇佐美の個体史研究ともなる。

 日本言語技術教育学会研究大会は指導者の言語技術と学習者に身に付けさせる言語技術を模擬授業で報告し合い、模擬授業者、指定討論者、参加者の議論で検討する。模擬授業での報告、報告された言語技術の有効性の議論による検討という研究方法は本学会の研究成果の一つといえよう。しかし、実践を想定した、言語技術を使用した模擬授業の報告と議論による検討、これらの研究方法は具体的である。しかし、事前検討が難しい。したがって、『言語技術教育33』の執筆者は研究大会の模擬授業での言語技術の推測や、各領域で必須と判断する言語技術を報告し合っている。

 第三三回研究大会の構成は学習指導要領国語科の領域と同様である。京野真樹は「話すこと・聞くこと」領域にて、「対話による絵画の鑑賞」に有効な言語技術を報告する。「鑑賞」は国語科に加え、図画工作、音楽、美術でも必須の語彙であり、言語活動である。しかし、「鑑賞」を通して、教科内容を深く学んでいる学習者は少ないだろう。各教科等での言語活動が充実していないからである。したがって、言語活動充実のための言語技術指導の解決が課題である。

 山本裕貴は模擬授業でChatGPTの作文指導に有効な言語技術を報告する。テキスト生成AIを用いた指導に加え、手書き指導が課題である。柳谷(二〇二二:八四)は述べる。「GIGAスクール構想が推進されている現在、筆者は原稿用紙を用いず、PCでレポートを書かせている。今後、PCでの作文指導は増えるだろう。」三年前から再任用で担当している中学生に柳谷は原稿用紙を使った作文指導をあまり行っていない。メモや下書きをタイピング、清書を手書きさせている。例えば、指導者は手書きしているだろうか。宇佐美の論文は手書きであった。野口芳宏も手書きである。柳谷は両者の手書き論文をタイピングした経験を持つ。池田(二〇一一:一一)は述べる。「視写がよい。読み書きの経験を積ませるために、継続的で大量の視写を課す。」「私の視写の授業では、手書きのみをさせる。「日本語表現」で課す作文も手書きである。たまに作文をコンピューターで「作成」してくる学生がいるが、それは受理しない。必ず手書き原稿を提出させる。」(同、一六八)確かに、視写、手書きは様々な価値を持つ。しかし、四〇年間、柳谷はタイピングしてきた。毎年二〇〇枚程度を発行していた学級通信は手書きであった。それも、一九九七年以降はタイピングにした。したがって、柳谷は二五年間くらい手書きで長文を書いていない。池田(二〇一一)も述べているが、タイピングのためか学習者の字形は崩れている。小学一年生から一人一台端末が貸与されている現在、更に崩れているだろう。柳谷は三年間、中学生の手書き文字を見ているが、「か」「せ」「や」など判別できない文字を生徒は書く。令和五年度は中学三学年全員の国語を担当した。平仮名の字形が崩れていた。タイピングだけだと更に手書き文字が崩れる危険性がある。そこで、ノート指導と点検、原稿用紙の清書指導と点検、定期テストの記述式問題(各学年一〇問程度)の解答の点検を行い、字形指導もしていた。テキスト生成AIの作文指導に関連する課題は多い。

 瀧沢葉子は説明文の読解指導に有効な言語技術を報告する。例えば、どう情報を理解させるか、どう情報を操作・活用させるか、どう構成を活用させるか、どう語彙を増やすか、どう考えを形成させるか。説明文の読解指導は指導目標により、多様な学習活動、言語技術を想定できる。したがって、指導目標ごとの言語技術の解明が課題である。

 岩下修は詩歌の読解・鑑賞指導に有効な言語技術を報告する。『詩の授業』で読解・鑑賞を深める言語技術を必然的、スムーズにどう指導するか。国語科授業で学習者が身に付けるのは、言語技術に加え、言語技術を含む語彙、学習意欲もある。学習意欲を喚起する、学習者を国語好きにするための指導者の言語技術の解明も課題である。期待しよう。

 

参考文献

池田久美子(二〇一一)『視写の教育――〈からだ〉に読み書きさせる』東信堂

柳谷直明(二〇二二)「各教科等の言語活動を充実させるための言語技術抽出法研究」言語技術教育学会編『言語技術教育31』溪水社、販売はamazon.

 

20240629